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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)117号 判決 1999年11月16日

原告

株式会社レザック

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

被告

【C】

【D】

【E】

被告ら訴訟代理人弁理士

【F】

【G】

主文

特許庁が平成7年審判第15690号事件について平成10年3月20日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文同旨

2  被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告らは、発明の名称を「帯刃の曲げ加工方法」とする特許第1934355号の特許発明(昭和62年6月10日に出願、平成7年5月26日に設定登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。

原告は、平成7年7月18日に本件発明に係る特許の無効の審判を請求し、特許庁は、同請求を平成7年審判第15690号事件として審理し(後に、アイ・イ・アイ・ジャパン株式会社及び有限会社タチバナコーポレーションによってなされた無効審判の請求に係る平成9年審判第12276号事件に併合された。)、被告らは、願書に添付した明細書の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。 特許庁は、本件訂正を認めたうえ、上記事件について、平成10年3月20日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を同月29日に原告に送達した。

2  本件発明の特許請求の範囲(別紙図面1参照)

(1)  本件訂正前の本件発明の特許請求の範囲

型材の出口から帯刃を間欠的に送り出しつつ、帯刃の送りが停止されるごとに、押し具を一定幅だけ移動させることにより上記帯刃を上記出口に具備された型材の成形面に押し付けて一定角度だけ折り曲げることを繰り返すことによって、全体として帯刃を所望の曲率半径の湾曲形状に折り曲げることを特徴とする帯刃の曲げ加工方法。

(2)  本件訂正後の本件発明(以下「訂正発明」という。)の特許請求の範囲

型材の出口から帯刃を、それの折り曲げられる各個所の相互間隔が同一になるように曲げ加工を施す部分を複数に等分割してその等分割個所が上記出口に具備された型材の成形面に次々と対向されるように決定された一定の送り幅で間欠的に送り出しつつ、帯刃の送りが停止されるごとに、所定厚みをもち上記型材の成形面側に偏るように先細りに形成した先端部をもつ押し具を一定幅だけ移動させることにより、上記先端部を上記形成面に接近させて上記帯刃を上記出口に具備された型材の成形面に押し付けて一定角度だけ折り曲げることを繰り返すことによって、全体として帯刃を所望の曲率半径の湾曲形状に折り曲げ、このような曲げ加工をコンピュータ制御で行なうことを特徴とする帯刃の曲げ加工方法。

3  審決の理由

別紙審決書の理由の写しのとおり、本件訂正を認めたうえで、訂正発明は、英国特許第2116086号公報(審決の甲第1号証、本訴の甲第11号証、別紙図面2参照。以下「引用例1」という。)、米国特許第3395846号明細書(審決の甲第3号証、本訴の甲第12号証、別紙図面3参照。以下「引用例2」という。)、実公昭39-10341号公報に記載されたものとも、また、これらに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないと認定判断した。

4  訂正発明に係る明細書(以下「訂正明細書」という。)の記載

訂正明細書には、次の記載がある。

(1)  「この発明は、所謂トムソン刃木型等に用いられる帯刃を所望の曲率半径となるように曲げ加工する方法に関する。」(1頁15行ないし16行)

(2)  「従来の方法は、帯刃を叩いて凹ませるときの力加減が難しく、このことが帯刃にスプリングバックが具備されていることも相まって、所望の曲率半径を有する湾曲部分を正確に形成するのに高度な技量と熟練を必要とし、誰でもが簡単に行なうことができないという問題があった。この発明は以上の問題を解決するもので、・・・一般的には一度の折曲げ作業を一気に行うだけでは大きな角度に曲げにくい鋼材でできている帯刃を、大小様々な開き角度を持つ湾曲形状に無理なく曲げ加工することのできる方法を提供することを目的とする。」(2頁16行ないし23行)

(3)  「押し具22の一回の押し付けにより折り曲げられる帯刃1の折曲げ角度と曲げ加工により形成したい湾曲部分の曲率半径とから折曲げ回数を算出しておけば、これら両方の要素を因子として正確な曲げ加工を行うことが可能になる。なお、押し具22の一回の押し付けにより折り曲げられる帯刃1の曲がり角度には、帯刃1のスプリングバックを考慮しておく必要がある。」(4頁下から4行ないし5頁1行)

(4)  「この発明の曲げ加工方法によると、一般的には一度の折曲げ作業を一気に行うだけでは大きな角度に曲げにくい鋼材でできている帯刃をどのような曲率半径を有する湾曲形状にでも簡単かつ正確に折り曲げることができるようになり、しかもその曲げ加工を熟練者に限らず特別な訓練を受けていない初心者でも簡単に行えるようになる。また、上記のような曲げ加工をコンピュータ制御で行なうことにより、従来では極めて困難を伴うような複雑な形状の曲げ加工をも行えるようになる利点がある。」(5頁14行ないし20行)。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由Ⅰは認める。同Ⅱ1のうち、平成9年4月7日付手続補正書による訂正請求書の補正が、その要旨を変更するものではないことは争い、その余は認める。同Ⅱ2のうち、訂正事項a及びdが特許請求の範囲の減縮に該当すること、訂正事項f、i、j及びlが明瞭でない記載の釈明に該当すること並びに訂正事項a、d、f、i、j及びlが新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないことは認め、その余は争う。同Ⅱ3は認める。同Ⅱ4及び5は争う。同Ⅲは認めるが、このことは、本件訂正が許されることを認める意味ではない。同Ⅳ、Ⅴは認める。同Ⅵ(対比・判断)1のうち、引用例1には相違点Bにおける本件発明の構成が明瞭に記載されていないことを争い、その余は認める。同Ⅵ(対比・判断)2のうち、(1)及び(2)の請求人の主張(23頁15行ないし24頁10行)は認め、その余は争う。同Ⅵ(むすび)は争う。審決は、本件訂正が特許請求の範囲の減縮を目的としていないことを看過し(取消事由1)、相違点Bにおける本件発明の構成が引用例1、2に記載されていることを看過して、これらからの本件発明の容易推考性の判断を誤り(取消事由2)、その結果本件訂正を認めたものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

1  取消事由1(本件訂正が特許請求の範囲の減縮を目的としていないこと)

(1)  本件訂正のうち、特許請求の範囲を「型材の成形面側に偏るように先細りに形成した先端部をもつ押し具」とした点(以下「構成(ア)」という。)のうちの「成形面側に偏るように先細る」は、少なくとも次の(a)ないし(c)の解釈が成り立ち、その意味するところを一義的に特定することができないから、不明瞭であって、これを特許請求の範囲の減縮を目的としたものとすることはできない。

(a) 押し具の先端部の方向が、成形面側に偏るように先細っているという意味、すなわち、先細った先端部が指向する方向性を示す言葉と理解することができる。換言すれば、先端部が矢尻のように先細っているが、その矢尻の方向が、成形面の方向に偏っているという意味にとらえることができる(以下「(a)の解釈」という。)。

(b) 押し具22の先端部は、先端部を形成する反成形面側の斜面22cが成形面側の下面22bに対して傾斜しているから先細ることができるのであるから、押し具の先端部を構成する斜面22cの方向を指す言葉としても解釈可能である(以下「(b)の解釈」という。)。

(c) 先細った押し具の先端部が、押し具の先端部以外の部分より成形面側に偏っている、すなわち、先端部と成形面との距離が、押し具22のその他の部分と成形面との距離より短く設定されているという意味にもとり得る(以下「(c)の解釈」という。)。

もっとも、「成形面側に偏るように先細る」は、上記(a)ないし(c)の解釈のいずれをも含む上位概念であるという解釈も成り立つが、その場合には、新規性、進歩性の面で問題が生じる。

(2)  審決は、上記「成形面側に偏るように先細る」は、「先端部の先細り形状そのものが、例えば2等辺三角形のごとき両側均等形状ではなく」と認定している。しかし、「2等辺三角形のごとき両側均等形状ではない」というのは、押し具22のどの3点からなる三角形を問題にしているのか不明であり、意味をなさない。

(3)  構成(ア)と押し具の先端部と型材の成形面との間の距離を短くできるという効果との間には、因果関係がないから、上記効果を参酌しても、構成(ア)の不明瞭性は解消できない。

(4)  本件訂正のうち、特許請求の範囲を「上記先端部を上記成形面に接近させて曲げ加工する」(以下「構成(イ)」という。)とした点は、構成(ア)で定義した「先端部」の動きを規定したものであるから、構成(ア)が不明瞭である以上、上記の点も不明瞭である。

2  取消事由2(引用例1、2記載の発明からの容易推考性の判断の誤り)

(1)  構成(ア)の「成形面側に偏るように先細る」の意味につき、(a)の解釈、すなわち、押し具の先端部の方向が、成形面側に偏るように先細っているという意味であるという解釈をとった場合。

引用例2記載の発明の押し具に相当する曲げブレード26の下面26bと斜面26cの中心を通る中心線26dの方向(すなわち、曲げブレード26の先細り方向)は、成形面17aの方向に偏っている。

したがって、構成(ア)は、引用例2に記載されている。

(2)  上記構成(ア)の「成形面側に偏るように先細る」の意味につき、(b)の解釈、すなわち、押し具の先端部を構成する斜面の方向を指す言葉とする解釈をとった場合。

イ 引用例1記載の発明において、ピン40の斜面、例えば40bの部分の傾斜方向は矢印40cで示す40bにおける接線の方向を向いている。したがって、構成(ア)は、引用例1に記載されている。

ロ 引用例2記載の発明の曲げブレード26の斜面26cは、明らかに成形面17aの方向に偏るように傾いている。したがって、構成(ア)は、引用例2にも記載されている。

(3)  構成(ア)の「成形面側に偏るように先細る」の意味につき、(c)の解釈、すなわち、先細った押し具の先端部がその他の部分より成形面側に偏っている意味であるという解釈をとった場合。

イ 引用例1記載の発明のベンディングピン40の先端の加工点40aは、同ピン40の後端部40dよりも成形面Aに近い位置にある。したがって、構成(ア)は、引用例1に記載されている。

ロ 引用例2の曲げブレード26の先端点26aは、曲げブレード26のその他のどの部分より成形面側に近い位置にある。したがって、構成(ア)は、引用例1に記載されている。

(4)  以上のとおり、構成(ア)は引用例1ないし引用例2に記載されており、したがって、構成(イ)も、同様に引用例1ないし引用例2に記載されている。したがって、上記各引用例に構成(ア)、(イ)が記載されていないとした審決の認定判断は誤りである。

第4  被告らの反論の要点

1  取消事由1について

(1)  構成(ア)は、押し具の先端部を、押し具の所定厚みにおいて型材の成形面側に偏るように(成形面側に寄るように)先細りに形成したという意味であって、押し具の先端部を押し具の所定厚みにおいて型材の反成形面側に偏って先細りに形成したり、その先端部を押し具の所定厚みの中心に位置するように先細りに形成したりするものではないという意味である。したがって、二等辺三角形のように両斜面を均等に先細りに形成して、先端部を所定厚みの中心に位置するような構成は、訂正発明における押し具の構成に含まれないのである。

以上のとおり、構成(ア)の意味は明瞭である。

(2)  構成(イ)は、押し具の成形面側に偏るように形成した先端部を成形面に接近させ、その接近させた先端部で帯刃を型材の成形面に押し付け、その帯刃を一定角度だけ折り曲げるという意味であって、押し具の先端部を成形面から遠ざけて成形面に押し付け、帯刃を折り曲げるものではないという意味である。したがって、上記押し具の先端部を押し具の他の部分(例えば後端部)よりも成形面側に接近させるということを意味しているものではない。よって、構成(イ)の意味は明瞭である。

(3)  訂正発明は、所定厚みをもち型材の成形面側に偏るように先細りに形成した先端部をもつ押し具を一定幅だけ移動させることにより上記先端部を成形面に接近させて帯刃を型材の成形面に押し付け、帯刃を一定角度だけ折り曲げるようにしたことによって、帯刃の折り曲げ時に、先端部が所定厚みの中心に位置される構成の押し具に比べて、押し具の先端部と型材の成形面との間の距離が小さくなるので、帯刃の曲げに伴うスプリングバックの影響を非常に小さくすることができ、正確な曲げ加工をすることができるのである。

2  取消事由2について

(1)  引用例1について

イ 構成(ア)は、前述のとおり、単に先細りの斜面40bの方向が成形面Aの方向に偏っていればよいとか、先細りの先端の加工点40a(先端部)が後端部40dよりも成形面A側に偏っていればよいとかというものではない。これを前提とする原告の主張は、失当である。

ロ 引用例1において、ベンディングピン40は、定規も使わずに手書きで極めて曖昧不明瞭に記載されているにすぎない。このような不明瞭な記載では、ベンデングピン40の先端部が、同ピン40の所定厚みにおいてどの位置に形成されているのか認識することができない。したがって、引用例1には、構成(ア)が記載されているものとはいえない。

(2)  引用例2について

イ 構成(ア)は、前述のとおり、単に加工点26a(先端部)の中心線26dの方向が成形面17aの方向に偏っていればよいとか、斜面26cが成形面17aの方向に偏るように傾いていればよいとかというものでも、先端点26aは曲げブレード26(押し具)のその他のどの部分よりも成形面側に近い位置にあればよいとかというものでもない。これを前提とする原告の主張は、失当である。

ロ 引用例2記載の曲げブレード26は、シート状金属16に押し当てる先細りの先端部の位置が、曲げブレード26の厚みとの関係においてどの位置に形成されているのか認識することができない。すなわち、この曲げブレード26の図は、曲げブレード26の厚み、先細りの角度及び先端部の位置を寸法を記入しながら正確に書き表している設計図面のような図ではなく、極めて曖昧不明瞭な図である。また、曲げブレード26の先端部を成形面から遠ざける大きなテーパ面が書き表されているため、曲げブレード26の先端部の位置が曲げブレード26の厚みとの関係においてどの位置に形成されているのか全く認識することができない。したがって、引用例2の曲げブレード26の先端部の図では、構成(ア)が開示されているものとはいえない。

ハ 引用例2は、曲げブレード26の先端部を部材17の角部(成形面)から遠ざけて、シート状金属16を部材17の角部(成形面)に押し付けてシート状金属16を折り曲げるものであるから、引用例2には、押し具の所定厚みにおいて成形面側に偏るように先細りに形成した押し具の先端部を、成形面に接近させて帯刃を型材の成形面に押し付けて帯刃を一定角度折り曲げ、これにより押し具の先端部と成形面との間の距離を小さくして、帯刃の曲げに伴うスプリングバックの影響を非常に小さくし、正確な曲げ加工をするという、帯刃の曲げ加工方法が開示されているとはいえない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1(本件訂正が特許請求の範囲の減縮を目的としていないこと)について

(1)  訂正発明の特許請求の範囲のうち、構成(ア)に関係する部分は、「所定厚みをもち上記型材の成形面側に偏るように先細りに形成した先端部をもつ押し具」というものであるから、構成(ア)は、先細りに形成した先端部が、所定厚みをもつ押し具との何らかの関連において型材の成形面側に偏るように形成されていることを意味していることは明らかである。

(2)  訂正明細書には、構成(ア)に係る直接的な記載は認められない。

しかし、訂正明細書には、「従来の方法は、帯刃を叩いて凹ませるときの力加減が難しく、このことが帯刃にスプリングバックが具備されていることも相まって、所望の曲率半径を有する湾曲部分を正確に形成するのに高度な技量と熟練を必要とし、誰でもが簡単に行うことができないという問題があった。この発明は以上の問題を解決するもので、」(2頁16行ないし19行)、「押し具22の一回の押し付けにより折り曲げられる帯刃1の折曲げ角度と曲げ加工により形成したい湾曲部分の曲率半径とから折曲げ回数を算出しておけば、これら両方の要素を因子として正確な曲げ加工を行うことが可能になる。なお、押し具22の一回の押し付けにより折り曲げられる帯刃1の曲がり角度には、帯刃1のスプリングバックを考慮しておく必要がある。」(4頁下から4行ないし5頁1行)との記載があることは当事者間に争いがなく、甲第2号証(本件発明に係る特許願)によれば、願書添付図面1aないし1d図には、曲げ加工を行う押し具の移動幅Hの方向と直交する方向に所定厚みをもつ押し具の先細り形状が、先端部が所定厚みを二等分する線上や、型材の反成形面側に偏って位置するものではなく、先端部が上記二等分線よりも成形面側に偏る形状のものが記載されていることが認められる。

そして、移動幅Hの方向と直交する方向に所定厚みをもつ押し具の先端部の先細り形状が、所定厚みを二等分する線よりも成形面側に偏る形状とした場合には、上記先端部と型材の成形面との間の距離を小さくできること及び押し具の先端部が帯刃を折り曲げる時点で、上記先端部と型材の成形面との間の距離を小さくした場合には、帯刃の曲げに伴うスプリングバックの影響を小さくできることは自明というべきである。そうすると、構成(ア)と帯刃のスプリングバックの関係について、訂正明細書には明示の記載はないけれども、訂正明細書及び願書添付図面の前記記載によれば、構成(ア)は、帯刃の曲げに伴うスプリングバックの影響を小さくするために、上記先端部と型材の成形面との間の距離を小さくするためのものであって、移動幅Hの方向と直交する方向に所定厚みをもつ押し具の先端部の先細り形状が、所定厚みを二等分する線よりも成形面側に偏る形状の押し具を意味するものと解される。すなわち、構成(ア)は、押し具の先端部が成形面にできるだけ接近するように配設して曲げ加工を行うための方法として、移動幅Hの方向と直交する方向に所定厚みをもつ押し具を採用したうえで、その先端部の先細り形状を規定することによって、本件明細書の実施例に記載されたような押し具の形状に限定したものというべきである。

したがって、構成(ア)の意味は、不明瞭ということはできない。

(3)  構成(ア)について、原告が主張する(a)ないし(c)の解釈は、上記スプリングバックに関する訂正明細書の記載を考慮しないものであって、採用することができない。

また、原告は、構成(ア)が不明瞭であることを前提として、構成(イ)も不明瞭である旨主張する。しかし、構成(ア)の意味が明瞭であることは上記のとおりであるから、原告の主張は、前提を欠くものであって、採用することができない。

したがって、取消事由1に関する審決の認定判断は相当であって、原告主張の違法はない。

2  取消事由2(引用例1、2記載の発明からの容易推考性の判断の誤り)について

(1)  甲第12号証(引用例2)によれば、引用例2には、シート状金属を正多角形筒に曲げ加工する方法として、上下運動するロッド25の端部に取り付けられた曲げブレード26が、シート状金属の設定された送りと支持を行う固定ジョーをなすブレード17及び可動ジョー19をなすブレード18との関係で、下端位置にある時にシート状金属をブレード17の成形面の周りに曲げる加工技術が記載されるとともに、Fig1として、成形面となるブレード17及び18を指向して鉛直方向のロッド25から斜めに突出した曲げブレード26が、その先端部を成形面となるブレード17に接近させて曲げ加工をしていることが図示されていることが認められ、上記事実によれば、引用例2記載の発明の曲げブレード26は、シートの曲げ成形を行うに当たってロッド25の運動によって上下方向に運動し、曲げブレード26の先端部は、上下方向(本件発明における移動幅Hの方向と直交する方向に相当する。)において、成形面に向けて最も近接した位置でシートを加圧するような取付形状となっているものと認められる。

(2)  もっとも、曲げブレード26は、右上から左下の方向に斜めに突出した形状であるため、これと直交する方向が厚みであるとも解され、そうすると、曲げブレード26の先端部の先細り形状は、所定厚みを二等分する線よりも成形面側に偏る形状をもつといい得るか否かは疑問である。

しかし、押し具の先端部が帯刃を折り曲げる時点で、上記先端部と型材の成形面との間の距離を小さくした場合には、帯刃の曲げに伴うスプリングバックの影響を小さくできることが自明であることは前示のとおりであるから、当業者は、引用例2記載の発明の曲げブレードの前記取付形状をみた場合には、できるだけ成形面に接近した位置で押し具である曲げブレード26の先端部を金属シートに押し付けて曲げ加工を行い、スプリングバックの影響を小さくしているものと理解することは明らかである。

そうすると、引用例2には、スプリングバックの影響を小さくするために曲げブレード26の先端部が成形面にできるだけ接近するように配設して曲げ加工を行うことが開示されているに等しいというべきであるから、上記の観点から、当業者が、押し具の先端部が成形面にできるだけ接近するような別の形状として、押し具の先端部を型材の成形面側に偏るように先細りに形成することは容易になし得るものと認められる。

すなわち、押し具の先端部が成形面にできるだけ接近するように配設できればよいのであるから、押し具の形状は、その範囲内で適宜選択することができる設計事項にすぎないものというべきであって、その際に、本願発明のように、移動幅Hの方向と直交する方向に所定厚みをもつ押し具を採用したうえで、その先端部の先細り形状を構成(ア)に限定することに特段の困難はないのみならず、そのように限定したことによる予測できない効果があるものとも認められないのである。

(3)  翻って考えれば、引用例2記載の発明の曲げブレード26の厚みを、訂正発明の押し具の厚みの方向と同様に、上下方向と直交する方向(左右方向)において曲げブレード26がもっている厚みと解した場合には、曲げブレード26は、どの部分をとって厚みを二等分する線を考えても、その線よりも先端部の先細り形状が成形面側に偏る形状をもつ押し具であるから、型材の成形面側に偏るように先細りに形成した先端部をもつ押し具ということができるのであって、構成(ア)は、厚みの方向の見方によっては、引用例2記載の発明の曲げブレード26にも、既に備わっていたともいい得るところである。そして、これを構成(ア)とするか、引用例2記載の発明の曲げブレード26のようにするかは、同一の先端部をもつ押し具について、それ自体の形状のものとしてみた場合の厚みがどの方向にあるように先端部以外の形状を構成するか、という相違にすぎないものとも解されるところである。

(4)  被告らは、引用例2の曲げブレード26の図は、設計図面のような図ではなく、極めて曖昧不明瞭な図であると主張する。しかし、少なくとも、上記認定を可能にするとの限度では、同図は明瞭であり、また、設計図面ではなくても、当業者において、その技術的意義を認識することができることは前示のとおりである。被告らの主張は、採用することができない。

(5)  そして、構成(イ)が引用例2に記載されていることは、前記(1)認定の事実から明らかである。

(6)  以上のとおり、相違点Bにおける訂正発明の構成は、引用例2記載の発明から当業者が容易に想到し得たものというべきであるから、これが引用例2に記載もなく、示唆もないとした審決の認定判断は誤りであって、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

したがって、審決は、違法であって取消しを免れない。

第6  よって、原告の本訴請求は、理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 春日民雄 裁判官 山田知司)

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